京大生のナンパ大作戦、果たしてその首尾は?
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アカイさんとヒダカ君がナンパに出掛けたその夜は、さすがにみんな関心があるとみえて、早くからボクの部屋に集まっていた。
そして麻雀しながら彼らが一体、どんな成果を上げて帰って来るのか、期待半分・やっかみ半分で彼らの帰りを待っていた。
「アカイさんは明るいし、しょーもない話でも面白そうにする人やから、結構女の子もついてくるんとちゃうか?
でもヒダカはどうかなー」とヨシザワ君が言うと、他の連中も口々に自分なりの予想を口にした。
「二人とも京大生なんやから、贅沢さえいわんかったら、どっちとも大丈夫とちゃうか?第一おまえらかて、よう京女の女の子と合コンしてるやないか?」。
「そらまーそうやけど、でもなんぼ大学生や言うたかて、首から学生証ぶら下げてる訳やないし、面白い事の一つも言えんヤツに、最初から女捕まえられるやろか?それやったら、誰でもみんなディスコへ行くで、やっぱ無理ちゃうかー」
「俺はやっぱりヒダカ次第やと思うな、アイツが変に高望みせんかったら、行けるんとちゃう?」。
だが夜もふけ日付も変わってみんなが、「そろそろかな」などと思い始める時刻になっても、彼らは一向に帰って来る気配がなかった。
「まさかアイツらいきなりホテルへ連れ込んでるんやあるまいな」と誰かが言ったが、彼らにそんな度胸などない事はみんな知っていた。
だからみんなすぐ「まさかー!」「あり得んで」などと言ったが、しかしそれにしても…。
だから「うーんアイツらひょっとして一人も女が引っ掛からんので、まだディスコでずっと粘っとるのとちゃうか?」とヨシザワ君が言い出した。
「そんで店員と一緒に掃除してたりして!」
「あははははっ」
「それともオレらに会わす顔がなくて、河原町あたりでヤケ酒呑んどるんかもなー」
「アイツらやったら河原町やなくて黒潮丸やで」
「あそしたら俺買い物ついでに、ちょっと黒潮丸覗いてこよか!」
「黒潮丸でヤケ食いして、救急車で運ばれてるかも知れへんで。
王将も覗いてこいや、餃子二十人前ぐらいタダ食いしてるかも!」
「そやなーヒダカは夏合宿で二キロも太りよったことやし」
そんな風にボクらは冗談を言い、そして次第に彼らの敗戦を折り込み始めた。
そして話す事すらもなくなり、静かにみんなが無言で牌を捨て始めた頃になってようやく、遠くから話し声が聞こえ始め、待ちに待ったその夜の主役二人がようやく帰還した。
彼らはどうもボクらの想像とは違った、大きな成果を上げて帰ってきたらしく、上気した赤ら顔でドカドカと部屋へ上がり込んだと思うや否や
「おうおうおうおうっ!やったでやった!
成功したでえっ!オレもヒダカもちゃんとうまいこと行ったでえーっ!」
「成功や成功!大成功だぜーぇ!」と夜の夜中に、辺り構わず怒鳴った。
そして彼らは突いたら破裂してそのまま一年間ぐらい笑いつづけそうな、そんなとんでもない笑顔で一気にその夜の出来事を話始めた。
アカイさんが真っ赤な顔で「○○女子大の女の子でなー、これがまた無茶苦茶かわいいねん!髪の毛がこう長くてなぁ、脚がスラッとしてて目茶苦茶美人なんやでーっ!」
と言うと負けじとヒダカ君も
「そうそうそう!それでもう一人の××ちゃんはショートヘアーでな、脚はちょっと太いけどそれがまたかわいーんだ!
○○が××で△△が〓〓なんだ!!!」と同じように赤い顔ではしゃいでそう言った。
「へぇーっ凄いやん、それでそれで?」、とヨシザワ君が羨ましそうな顔で彼らに色々尋ねたせいもあって、二人はそれから延々一時間あまりも、微に入り細に入りうれしそうにその夜の話を続けた。
それはまるで止める者が誰もいないので、留守宅で延々鳴り続けている目覚まし時計のようであったが、彼らがどうもボクらの予想に反して、大きな戦果を上げて帰ってきたらしいことは確かであった。
そして彼らは未だ余韻さめやらないといった様子で、真夜中の静かな下宿の中だというのに、まだディスコの中にいるかのような大声でしゃべり続けた。
そしてさらに話終わってボクらが麻雀を再開してからも、アカイさんはベニヤでできた下宿の壁にもたれかかりながら、「○○ちゃんかわいいわぁ!」とか
「○○ちゃん脚がきれいやわぁ!」などと、まるで夢遊病者のように何度も何度も繰り返した。
ボクはさすがに彼らに充てられて、「うーむ」と言いつつ二の句がつげられなかったのだが、ヨシザワ君が最後にポツリとボクらの本音を代表するように
「しっかしなーアカイさんはわかるにしてもヒダカまでうまく行くとはなー」と言うと、自分の部屋に戻ろうとしていたヒダカ君は、ムキになって振り返り「オレだって、やるときはやるんだっ!」とそう言った。
「あはははははっ」ヨシザワ君は少しニガ笑いをした。