裕福な人間は、努力のケタが違う
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ボクらが麻雀するのはたいてい夜だったから、リリィはいつもは静かに寝ていたらしい。
だからボクは彼女が犬を飼っているということに、その時まで気づかなかったのだ。
「すげーだろミチモト。
ユカリさん犬飼うために車の免許とって、それでこんなとこに下宿してんだぜ!
信じられないよなー」
アマノ君がそう言った。
「えっ?」ボクはさらにビックリしてユカリさんの顔を見た。
それに答えるように彼女は
「だって大学の近くって学生向きの物件しかないじゃない?
それに京都はあちこちに大学があるから、学生向きのアパートやマンションはたくさんあるんだけど、犬を飼えるよなところが全然なかったのよ。
だからリリィを飼えるようなマンション探してたら、こんな遠くになっちゃったわけ。
そしたらもう運転覚えて車買うしか仕方無いじゃない?」
…とのたまった。
ボクはめまいがした。
もちろんボクも子供の時から、ずっと猫や小鳥を飼っていたから、彼女の気持ちもわからんでもない。
しかしまさか犬を飼いながら大学に通いたいがために下宿を探し、そしてそれが大学から遠く離れた場所だったからといって、車の免許を取ろうと考える人間が実際にいようとは!
少なくともボクが京都に来た時には、ネコやトリを連れて来ようなんてことは、まるで考えもしなかった。
ましてやそのために部屋を探したり、運転免許を取ろうだなんて、全く考えてみもしなかった。
考えてみると大学で勉強するのに、犬を連れて来ていけない理由なんて何もない。
ただ普通の人がそんなことをしないだけである。
たいていの人間は何の根拠もないのに、勉学にそういうモノが不必要だと決めつけ、そしてそういう努力をしないと言うだけの事なのである。
恐らく普通の人は、犬やネコを飼いたいという気持ちと、そのためにする努力の量を天秤にかけて、努力の量がかなり大きいから何のかんの理屈をつけて、諦めていただけなのである。
彼女は犬と一緒に生活し、勉強して大学にやって来た。
犬を飼うことは彼女にとって絶対必要なことで、そしてそれが彼女の大事な基本的生活パターンなのだろう。
愛犬と暮らせないという事は彼女にとって苦痛であり、不安な事である。
だから彼女はそのために努力し、そして苦労も厭わなかったのだ。
大学に行こうが就職しようが結婚しようが関係ない。
なぜならそれが彼女にとって、生活に不可欠な基本態なのだから。
「うーんしかし、金持ちというのは思いも寄らんことをやりよるなあ。
まさか犬一匹のためにわざわざこんな遠くに下宿して、車の免許まで取ってしまうなんて」。
ボクはその時心底、「金持ちというのはすごい考え方をするものだな!」と思った。
そしてそんな素直な彼女の態度と行動に感動した。