怪しい麻雀大会
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ユカリさんの自らの実現したい生活を実現させてしまう、努力とパワーに驚いたりビックリしたりするボクだったが、ある日突然ユカリさんから電話がかかってきた。
彼女からボクの所に直接電話がかかってくる事自体、えらく珍しいことだったから、ボクは一瞬「何事だ?」と少し身構えたのだが、しかしそれは何の事はないただの麻雀の誘いだった。
「ねえミチモトさん今夜ちょっと空いてません?
これからあたしん家で少し麻雀したいんだけど、メンツが全然揃わないんだ」
彼女はそういってボクを誘ったが、今日はいつもとちょっと事情が違うらしい。
というのもボクの部屋で遊ぶ時も彼女のマンションで遊ぶときも、彼女と麻雀する時はたいてい、アマノ君かユカリさんの彼氏が一緒だったのだが、その日に限ってどちらも来れないという。
「だから全然メンツが揃わなくってー」
彼女は電話の向こうで申し訳なさそうにそう言った。
だがしかしさっきも書いたがユカリさんは、犬を飼うために大学からかなり離れたところに住んでいて、銀閣寺道からは自転車で漕いで行っても相当時間がかかる。
行きは良くても帰りはダルい。
だからボクは
「うーんでもボク足がないんやけどなー。どの辺だったっけユカリさんち」
と言って断ろうとしたのだが、そうすると彼女は少し考えて
「あっそっかー足がないのね。うーんとえっーと、じゃあさぁミチモトさん、銀閣寺道の交差点のとこで待っててくださらない?
あたしが車で迎えに行きますから。
たぶん八時半ぐらいになると思うんだけど、それでいいかしら?」
…と言って強引にボクを勘定に入れ電話を切った。
ボクはまあそれほど忙しいわけでもなく、また別に何をするでもなかったので
「まあいいか」という感じで身支度し、時間通りにその待ち合わせの場所に向かった。
「リリィは元気かな?」そんなことを考えていたように思う。
ところがそうして彼女の車に拾われ、例の犬付きの広いアパートに着いてみると、そこにいるのは何と、ボクの全く知らない人たちばかりであった。
一人は文学部の女のコ。
一人は府立医大の男性。
後の一人はどんな人だったかもう忘れてしまったが、とにかくボクの知らない少し大人びた男。
ボクは彼女がそんなに社交的なヒトだとは知らなかったし、またボクを拾って彼女の部屋に戻る途中にも
「このクルマ、ハンドル重いわぁー!
やっぱりお金はケチるもんじゃないですわね。
ちゃんとパワステついてるの買うべきだった…」
(当時は高級車しかパワーステアリングがついていなかった)などと、ブツクサ言いながら車を走らせていただけだったので、てっきりいつも通りの顔見知りばかりが集まるのだと思っていた。
だから一瞬「えっ?」という感じで身構えた。
しかし彼女はそんなボクの様子など全く気にも留めず、ベッド上に散らかしてあった洗濯物のショーツやらブラジャーなどを
「あはははっ!」と照れ笑いしながら片付けただけで、「じゃあ始めましょうか!」と言い、笑顔で牌を並べ始めた。
だがしかしボクは落ち着かなかった。
と言うのも当時からボクは人見知りが激しく、口下手な人間であったからである。
もちろんボクが貧乏人であるのは彼女も知っていたはずだから、わざわざカモにするためにボクを呼んだわけではない。
そんなことぐらいはわかっている。
だがしかし知らない人間と、一緒に麻雀するのはやはり落ち着かない。
話す話題もないし相手の性格も全くわからない。
わからないということは怖いのだ。
だからボクは恐る恐る
「えーっと今日のメンツは一体どういう関係の集まりなんですかねぇ?
多分皆さんボクとは初対面だと思うんですけど…」
と尋ねてみたのだが、そうするとなんと彼らもお互い他の人とは初対面だと言う。
「いや実はね、さっき急にユカリさんから
『麻雀しません?』って電話がかかってきて、それで来たんだけど」
「あボクもそうそう!さっき彼女から電話がかかってきて
「麻雀できません?」って聞かれたもんだから」。
「はあそうですか」
ボクは配牌を並べ替えながら作り笑顔をして、そうあいまいに返事をしたのだが、心中穏やかではなかった。