第2章、育ちの良さが、人生を分ける記事一覧

大学の同輩に、アカイさんという人がいた。彼は工学部の建築学科の学生だったが、色白で背丈もそこそこ高く、ひょうひょうとした雰囲気を持つ明るい人間だった。有名人で言えば久米宏さんとか、ユースケ・サンタマリアさんのような、雰囲気を持った男性を想像してもらうと、何となくわかってもらえるかと思う。「ぐふっぐふっぐふっ」という風に、夜中でも陽気に笑う人だった。その頃のボクはまだ人を育ちの良し悪しという観点から...

さてその当時ボクの隣の部屋には、ヒダカ君という同輩が住んでいた。彼は理学部数学科の人間で、同じクラブに在籍していたのだが、ボクの部屋がよく麻雀大会の会場になっていたので、「何かと便利だ」とか言って一回生の終わりに、ボクの隣の部屋へ引っ越して来ていたのだ。その頃は確かに何かにつけて麻雀をしていて、たとえば「湯川博士が亡くなったから、さあそれでは博士の追悼麻雀をしよう。中(チュン)がドラで中をカンして...

さてディスコでナンパじゃあ!とのろしを上げた二人だったが、そこはやはり遊び下手なボクらのこと。日時はすぐに決まったけど、服装にしたってダンスにしたって、何をどうすれば良いのか全くよくわからない。今なら別にクラブであろうがカラオケであろうが、下手でも「エヘヘ」と笑って楽しめばいいのだとみんな知っている。が当時はまだ流行のステップをちゃんと覚えて行かないと、すぐに女の子に小馬鹿にされると言うウワサだっ...

アカイさんとヒダカ君がナンパに出掛けたその夜は、さすがにみんな関心があるとみえて、早くからボクの部屋に集まっていた。そして麻雀しながら彼らが一体、どんな成果を上げて帰って来るのか、期待半分・やっかみ半分で彼らの帰りを待っていた。「アカイさんは明るいし、しょーもない話でも面白そうにする人やから、結構女の子もついてくるんとちゃうか?でもヒダカはどうかなー」とヨシザワ君が言うと、他の連中も口々に自分なり...

さて彼らは翌週も翌々週も、同じようにディスコに通い、そしてそこで出会った彼女たちとデートを重ねていった。ボクは昔から女性の化粧臭い臭いが苦手だったので、実はディスコで知り合った女の子の話など全く興味無かったのだが、アカイさんはそんなことはおかまいなしに、いつもかなりうれしそうに、その話を何度も何度も聞かせてくれた。そして話が終わると決まっていつも最後に、「あー次の金曜日が待ち遠しいわぁ!」とつぶや...

関西では知り合いが東大に合格したと聞いても、「へぇーっなんでわざわざ東大なんか受けたん?京大でええのに」と言われるのがオチである。それは東京に住む人間に聞いても同じ事で、京大を受けると言うと「どうして東大を受けないの?」とか、「早稲田でいいじゃない?」とかなり言われるそうである。つまり東京近辺の頭のいいヤツは東大へ行き、関西の頭のいいヤツは京大へ行くというのが都会の常識で、事実東大でも京大でも、学...

ヒダカ君から漏れ聞く話によると、彼の弟が東大に合格して依頼、家庭における彼の立場は、少し微妙なものになっていたらしい。それまでは周囲の者も、京大に入ったヒダカ君の事を結構ホメてくれ、それなりに高く評価してくれていた。だがそれが弟が東大に合格した途端、彼らは急に掌を返すように弟を持ち上げ始め、替わりにあろうことか数学科に通う優秀なヒダカ君の事を、平気で低く扱うようになったと言う。だから彼はそれを不満...

当時のボクは様々な悩みを山ほど抱え、いつも暗い顔をして歩いていた。だから生意気な宗教青年たちによく捕まって、様々な勧誘を受けることが多かった。そういう勧誘には、「健康と幸せのためお祈りをさせてください」といわれ、三十秒ほどお祈りを受けて、名刺を一枚もらうだけという他愛のないモノもあったし、タンニショウとあだ名される仏教研究会のしつこい連中に捕まって、仏教論争をしないと解放されないようなモノもあった...

そんなわけでこの京大生二人のディスコでナンパ事件は、ヒダカ君が○○教会へ走ってしまったことで、一応収束したかのように見えたのだが、実は話はそれだけでは終わらなかった。と言うのもボクらは知らなかったのだが、アカイさんにはちゃんとした『彼女』がいたからである。その『彼女』は高校時代に知り合った同級生だったらしい。アカイさんは背こそそんなに高くはないが、スラッとした色白の青年で、三つ揃いの細身のスーツが...

それは梅雨の合間の、少しジメジメした日の事であったらしい。大阪に住むアカイさんの『彼女』が、久し振りに彼に会いに部屋へやってきた。アカイさんが呼んだのか、それとも『彼女』が自分から押し掛けてきたのかは知らない。がそうして二人が仲睦まじく時間を過ごしていたそんな折りもおり、ディスコで知り合った彼女が突然やってきた。それは虫の知らせか女のカンか、それとも単に二人とも休日をそれぞれの彼氏と、一緒に過ごそ...