常識も観察力もまるでなかったウチの母親
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ウチの母は普通の男性が、どのくらいの量のモノを食べるか知らなかった。
兄弟に男が一人もいないならばともかく、三人も兄がいるというのになぜか知らなかった。
だからボクと弟がカレーやシチューなどの夕食の日に、ここぞとばかりにバクバク飯を食うのを見ても、母は無神経に
「よう食うなー欠食児童みたいやな。
一体どこにそんなに入るねん」
などとよく言った。
ウチの母親が一体何を根拠に、そんな気の狂ったようなことを言っていたのかはわからないが、そういう事にまるで興味のないのは明らかだった。
しかしTVドラマを見ても、元気な中学生や高校生はよく早弁することになっているし、ガツガツモノを食うことになっている。
そしてたまにボクが友人宅で御飯をごちそうになる時だって、向こうのお母さんはボクがそれくらいは
最低食べると思って食事を用意している。
だからボクが友人宅で普段通りの食事をして箸を置こうとすると、先方様のお母さんに「もうエエの?小食なんやね。
おかわり何ぼでもつくってあるんだけど…」なんて何度も何度も言われた。
男の子はそれくらい食う方がやっぱり普通だったのである。
しかしウチの母親にはそんな常識がまるでなかった。
そんな量も全く用意しなかったし、袋入りのインスタントラーメンすら一食分の食事として計算した。
そしてあろうことか勝手にモノを食べたり、たくさん飯を食ったりすると「計算が狂う!」と怒鳴ってすぐに機嫌を悪くした。
だからボクは自然と食が細くなった。
自分の食が細いと言うことは薄々勘付いていたことだったが、大学に入って毎日のように友達と一緒に飯を食うようになると、それがハッキリした。
というのも友人達はたいてい皆ドンブリで大盛りの飯を食い、とんでもない食欲でモノを食べていたのだ。
肉ニラ炒めと餃子と大盛りの御飯だとか、大盛りの中華丼にトリの空揚げ二百グラムと卵スープだとか、当時ボリウム満点で評判の『餃子の王将』で、バクバク・バリバリ・モリモリと音でも立つぐらいに、みんな食べていたのだ。
「こいつらよう食うなー」などとボクも最初は思ったが、しかし実はそのくらいが健康な男性の普通の食事量なのであった。
それだけ食えないというのは、やはりボクがどこかおかしかったからであり、ボクの体調に合わせた食事を親がちゃんと、用意していなかったというだけであった。
腹がちゃんと減るというのが健康な印なのであって、食わないヤツは皆、ボクみたいに暗い顔をしている者だけであった。
以前後輩に中華料理屋でバッタリ会った時に、「おごってやるから好きなもの食え」と言ったことがあったが、彼は間髪入れず「二人前頼んでもいいですか?」と聞き返した。
そしてボクが「エエよ!」というと、彼はアゲソバと中華丼の大盛りと野菜炒めとを注文して、それをアッという間に平らげたのでボクはビックリした。
確かに彼は大柄な男だったが、それにしても凄い食欲だったから
「すごいなーオマエいつもそんなに食うのか?」と尋ねると、彼は平然として「はあこんなもんです、いつも」と
口をモグモグさせながらそう答えた。
ボクは彼の食欲にも驚いたが、それだけ食事にお金を掛けられる、彼の金銭感覚にも驚いた。
自慢じゃないが今でもボクは、千円以上を一食に使うことなどほとんどない。
しかし三人も兄を持ちながら、ウチの母親はそんなことも知らなかった。