キャンパスが明るくなったワケ
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ボクは以前工学部に通っていたから、周囲に女のコが少なかった。
工学部では入試で物理が必修だから、女のコにはなかなか近寄り難い雰囲気があるらしい。
拳法部の後輩で工学部のミズノ君に、そのことを尋ねても「女なんか全然おらん」と答えた。
だから事情は昔と大して変わっていないらしい。
もちろん理科系全体で女のコがいないという訳ではない。
薬学部でも理学部でも農学部でも、女のコはそこそこいる。
事実ボクが所属していた拳法部の二年上の先輩にも、数学科で四百CCのバイクに乗っているオオハシさんという女性がいたし、農学部や薬学部にも少なからず女性はいた。
文学部や経済学部ともなるとさらにたくさんの女性がいたはずなのだが、しかしどういうわけだかボクの目は彼女らには向かなかった。
どうもその頃のボクは、高校時代に好きだった女のコのことや、学外のかわいい女のコのことばかり考えていたようだ。
確かにあの頃は、そんな余裕がなかったのかも知れない。
周囲にキレイな女のコがいても、その存在に気付かなかったのかも知れない。
ミズノ君の同輩の女のコが「ミズノはアタシの事、女だと思っていない」とこぼしていたが、二十歳前後の理科系の男にとって女性というのは、そんな感じで居ても居なくてもいいような存在であるのかもしれない。
「それにしてもやはり変だ、昔のキャンパスはもっと暗かった」。
そんなことを何となく考えていたが、この謎はクラブの新歓コンパに出たらすぐとけた。
法学部で「この前ハタチになった!」と言う女のコがいたので、「じゃあ」と言ってみんなで少しお酒を呑ませたのだが、どういうわけか全く顔が赤くならない。
だからボクは不審に思って「あれーっ、強いなぁ。
酔わへんのーっ!?」と尋ねると、彼女は白っぽい顔で「酔ってマスぅ」と答えた。
「でも全然カオ赤くなってへんやんか!」とさらに言うと
「だってファンデーション塗ってるからぁ!」。
ああなんだそうか、今時の女のコ達はお化粧してるのか。
そういえば昔は誰もそんなことしてなかったもんなぁ。
してはいけない雰囲気さえあったもんなぁ。
そう思って周囲を見渡すと、ピアスをしてるコもいるし指輪をしてるコもいる。
ファッションだってカジュアルだけど結構洗練されてるし、体格だっていい。
そんな「キレイ」な女のコ達が少し高めのヒールやサンダルなんかはいて、モデルのようにカツカツ歩けば確かに目立つわな。
長い受験勉強のストレスから開放されて思い思いに着飾って、女のコ同士キャッキャキャッキャと騒いでいればみんな振り返るわな。
おまけに大学内で彼氏を作って、うれしそうに自転車の二人乗りなんかしている女のコだって結構見かける。
それに比べて大多数の男共と言えば、相も変わらずジーンズにTシャツ。
不気味に髪を伸ばして、わけのわからないことを平気で怒鳴ってるヤツまでいる。
ガニ股・ネコ背・バカ笑い。
他人のことは言えないけれど、彼女達が輝いてみえるのも当然か。
だけどボクは知っている。
何年か何十年かの後に、彼女らのうちの誰が幸せをつかみ、誰が不幸になってしまうのかを。
良家の娘は良家の男と結婚し、貧乏な娘はたぶん不幸な人生を送る羽目になってしまうだろうということを。
満面の笑みをたたえてうれしそうに笑い語りあう彼女らも、やがてはそうやって幸福組と不幸組に分かれてしまうのだ。
そうしてそれはもうおそらく半分は決まっているのだ。
「良家の娘は良家の男と結ばれる」ボクは今、そういう仮説を立てている。
果たしてこの仮説は真か偽か。
まずはボクの出会ったかわいい女のコの話から始めることにしよう。