育ちの良さは、能力を加速する
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ボクのアマノ君に対する評価は、初めは非常に低かった。
というのも彼は男なら普通にできそうなことも、なかなかできなかったからである。
たとえば知り合った当初のアマノ君は全くの機械オンチで、レコードプレイヤーを買ったときもビデオを買った時も、彼は「わかんないんだよぉ!」とか「映らないんだよぉ!」
などと言ってシンガイ君やボクらを呼んだ。
今考えてみるとそれは彼の友達を呼ぶための、一種の口実のようなものだったのかも知れないが、ボクはそんな彼を見て自分の尺度で彼を判断し、「男のくせにこんな簡単なこともできんとは、どういうやっちゃこいつは」などと、ちょっとした優越感をもったように覚えている。
そういうわけだからボクはアマノ君の事を、知り合った当初は少し侮っていた。
もちろん何だかんだと言っても、ボクらはお互い同じ京大の学生なのであったから、一定以上の評価はしていたのだが、しかし彼の子供っぽさと失敗の多さ、そしてそれを平気で友人たちに喋ってしまうというような抜けた感じは、ボクに彼を侮らせるに充分な材料だった。
それこそが実は彼の「育ちの良さ」なのだということが、当時のボクにはまだ理解できなかったのである。
しかしその後のアマノ君の、成長ぶりはすさまじかった。
ボクらと知り合って何年もたたないうちに、彼は急激に成長したのだ。
最初は簡単な簡易ステレオの配線すらできなかったのだが、しばらくするともうビデオやらアンプやら、大きなスピーカやらのゴチャゴチャした配線を、平気で一人でやるようになった。
「車に乗ると酔うんだよーそれに運転なんて怖いしー」などと言って、自動車免許を取らなかったのに、四回生の時に免許をとるとすぐ中古車を買って、毎日のようにそれを乗りまわした。
ボウリングもテニスも自転車も何でもかんでも上達し、中型自動二輪の免許もとってきれいなバイクも乗りまわした。
面白い場所があると聞くとすぐにそこへ行き、サークルの後輩連中とよく遊んだ。
アマノ君はそうしてヒトにモノを教わると、乾いたスポンジのように見る見るそれを吸収し、そして周囲の人間が驚くぐらいに上達したのである。
彼のサークルの後輩連中の目に彼は、快活で活動的な人間だと写っていたかもしれないが、ボクら彼の昔を知る者からすれば、それはまるで別人と見間違うような成長ぶりであった。
正直言ってボクは彼の成長に驚いた。
そしてなぜ彼がそんなに急激に成長できたのか、とても不思議に思った。