第4章、貧乏人は、健康のありがたみがわからない 記事一覧

ボクはしょっちゅう風邪をひく、年がら年中風邪をひく。ここ何十年というもの、薬を飲まなかった月はない。薬を買わなかった月もたぶんない。今は飲んでも飲まなくても同じなので、バッファリンくらいしか飲まないが、高校を出て住み込みで新聞を配っていた頃には、毎週のように風邪をひき毎日のように風邪薬を飲んでいた。あまりに風邪ばかり引くので、一度血液検査をして調べてもらったことがあったが、リウマチ反応の数値が少し...

アマノ君は普段は徹夜で麻雀しても、翌朝はちゃんと起き、一コマ目から授業に出るくらい健康な人だったのだが、時々風邪をひいて何日も寝込んだ。自転車で琵琶湖を一周したときは、風邪ではなく日焼けだったが、そのときも彼は一週間ほど寝込み大騒ぎした。アマノ君が風邪をひいて寝込むと、その情報はすぐにみんなに伝わった。と言うのもそういう時に彼は、決まってボクら友人みんなのところに電話してきて、今にも死にそうな情け...

さてその当時ボクはとある映画館で、オールナイト番の手伝いをしていた。キップを売ったりキップをもぎったり、館内に散らかった空きカンや空きビンを集めたり、人手不足のおりには映写技師の替わりをしたり…そんな感じの、夜中じゅう起きている事以外はかなり楽なアルバイトであった。だがそこでもボクはアマノ君のように、風邪ぐらいですぐにバイトを休み、寝込んでしまうヤツに出会った。「カナタ君今日は風邪で休みだって!」...

風邪は万病の元などと世間ではよく言うが、実際そう考えアマノ君たちのように、何がなんでも休養を取ろうとする人間はそうはいない。それはシンガイ君が、アマノ君のやりかたに対して、ブツブツ文句を言っていたことでもよくわかる。だが風邪などの感染症は、最初の三日間の対応が肝心なのである。単なる風邪であれば暖かくしてタンパク質をしっかりとり、そして三日か四日じっくりと静養すれば問題はない。さらに一週間ほど無理せ...

貧乏人は平気で休息をおろそかにする。そして休息を考慮に入れないで、スケジュールを組んだり仕事をしたりする。どれが大事でどれが大事でないかと言うことを考えたり、どれを先にどれを後回しにすれば全体として早く済むか、手間や時間が省けるかといった事を考えない。だから無意識に自分のやりたい事や興味のある事から仕事を始め、そうして限りある貴重な時間や肉体を無駄に潰してしまう。どうでもいい事を重要なことだと思い...

貧乏人は余裕のコントロールができない。ではその余裕とは一体何か。人によっては「余分」だとか、「余り」だと答えるかも知れないが、それは違う。余裕とは余分などでは決してない。たとえば道を歩く時を考えてみる。我々は歩く時普通足の裏しか地面に付けない。だから理屈上は歩く時、靴の幅ほどの道しか必要としないはずである。つまり我々は電車が二本の十センチメートル幅のレール上を走るように、平均台のような道で充分ちゃ...

日本人には昔からこういう、「余裕」と言う概念がなかなか理解できなかったようで、明治時代の日本にも似たようなことがあったらしい。真偽のほどは定かでないが、それは日本が鎖国を解き、外国から様々な技術や学問をどんどん輸入して、西欧文明に追いつき追い越そうとしていた頃の話である。ある工場でとんでもない大金をはたいて、高価な生産機械を輸入した。文明国の最先端の機械を買い、当時の日本最高の知能を持つ若い技術者...

ウチの母親は無茶苦茶だった。いい加減で無茶苦茶なことを平気でやっていた。たとえばウチの母親は朝食を作らなかった。だからボクら子供らは勝手にトーストを焼いて、ベタベタとマーガリンという油脂を塗りたくって食うだけだった。飲み物は牛乳だけであとは何もなし。タマゴもハムもソーセージもツナも何にもなし。昼食は家にいる場合はたいてい、インスタントラーメン一袋だけ。弁当なら白飯に卵焼き二切れと、そしてシシトウが...

ウチの母は普通の男性が、どのくらいの量のモノを食べるか知らなかった。兄弟に男が一人もいないならばともかく、三人も兄がいるというのになぜか知らなかった。だからボクと弟がカレーやシチューなどの夕食の日に、ここぞとばかりにバクバク飯を食うのを見ても、母は無神経に「よう食うなー欠食児童みたいやな。一体どこにそんなに入るねん」などとよく言った。ウチの母親が一体何を根拠に、そんな気の狂ったようなことを言ってい...

考えてみると朝起きて、腹が減るというのは健康な証拠である。なにせ朝食をとる時は、八時間以上も何も食べていないのが普通であるし、睡眠中に身体は肉体の更新や修理をしている訳だから、使えるタンパク質やビタミンは使い切っているはずだからである。だから健全な肉体は朝、その失われた栄養を補給しようとして腹を減らすわけである。しかし病人や貧乏人というのは、神経が正常ではないから腹が減らない。ちゃんとした朝食も睡...

うちの母には上場会社の社長をしている兄がいて、ボクらが小さいウチは家族揃って、よくそのおじさんの家へ泊まりに行ったものだった。その家には広い玄関があり、広い庭がありそして大きなコリーがいた。応接間には大きなグランドピアノがあり、従兄弟の女の子がそれを弾いた。おじさんは毎朝運転手付の車に乗り、そしてそれで会社まで通勤した。家自体は大阪の田舎の方にあったし、しかもそれは実は奥さんの実家を譲り受けたもの...

貧乏人の浅はかな考えでは、金持ちというのは毎日とんでもない御馳走でも、食べているように思いがちである。だがアマノ君やユカリさんなどが、何を食べていたかを思い出してみても、定食屋でサンマ定食や肉ジャガを、好んで食べていたような記憶がある。また邱永漢さんの奥さんの出している家庭料理の本を見ても、意外に地味な野菜料理や海鮮料理が多い。つまり裕福な人間というのは、何が自分を支えているかをよく知っているし、...